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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)382号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人代理人間山通正の上告理由について。

本件宅地四九七坪三合について、これをその所有者小堀多作から買受けた被上告人等は、小堀多作に対し右宅地に対する所有権移転登記請求権保全のため処分禁止の仮処分を申請し、その仮処分命令が昭和二一年五月二六日小堀多作に送達され、右仮処分命令については、当時施行の昭和二〇年勅令第三九九号戦時登記特別手続令中改正勅令四条ノ二により、青森区裁判所にその登記嘱託がなされ、(当時登記事務所管の青森区裁判所において、その備付の登記簿は昭和二〇年七月二八日戦災により焼失)、昭和二一年五月二三日同令によりその登記嘱託書が同区裁判所備付の申請書綴込帳に編綴されたことは、原判決の確定する事実であり、右綴込帳に編綴せられたときは、登記すべき事項については編綴の時に登記があつたと同一の効力を有するものであることは、同令四条ノ二、四項の規定により明白である。

しかるに小堀多作は昭和二二年六月一日本件宅地を含む六四一坪を蛯名ちよに売渡し、同月四日その所有権移転の登記の受理されたことは、原判決の確定するところであるが、蛯名ちよは、右売買による所有権の取得をもつて、仮処分債権者である被上告人等に対抗することのできないものであることは、前示仮処分命令の効力として当然である。このことは、所論のように、その後回復登記にあたり登記官吏の過誤により、仮処分命令の登記の移記を怠り、又は二重に新登記簿が開始され、これに右仮処分命令の登記が移記され、さらに後にその登記簿が抹消閉鎖された事実ありとしても、これらはいずれも、右小堀多作の蛯名ちよに対する本件宅地売渡処分以後のことに属し、かかる事実あるがために、さきに仮処分命令の効力として生じた右小堀多作の蛯名ちよに対する売却処分をもつて、被上告人等に対抗することができないという法律上の効果に、何ら消長を及ぼす筋合はなく、前示改正勅令が、その後廃止されたことについても同様である。そして、上告人等はさらに蛯名ちよより本件宅地を買受けてその所有権を承継取得したものであることは、また、原判決の確定するところであるから、上告人等の所有権取得もまた、これをもつて被上告人等に対抗することはできないものと云わなければならない。

論旨(二を除く)は、原判決の憲法違反を云為するところがあるけれども、その実質は、不動産登記法、前示改正勅令等に関する独自の見解に立脚して、本件仮処分登記の効力の消滅を主張するものであり、いずれも、小堀多作の蛯名ちよに対する本件宅地売却処分の以後に生じたる、二重登記の開始並びに閉鎖、改正勅令の廃止等に関する事実を主張して、上告人等の本件宅地に対する所有権の取得をもつて被上告人等に対抗し得る旨主張するに帰するのであつて、その理由のないことは既に前段説示するところによつて明らかである。

また綴込帳は登記簿そのものではなく、綴込帳編綴は新登記簿開始に先だち新たな登記申請の便益を得しめようとする暫定的措置で、その申請にかかる登記は後に開始される新登記簿に移記されるのであり(前示勅令四条ノ二、五項、旧不動産登記法七三条、現行不動産登記法七四条参照)、その新登記簿には当然所有権の登記がなされるのであるから(新旧不動産登記法一〇九条、一二九条)、綴込帳にまず所有権回復登記申請書の編綴を必要とする理由はなく、法令上もこれを要求していないのであつて、回復登記申請書の編綴なきかぎり、本件仮処分命令の登記嘱託書の編綴は無効であるとの論旨二も採用することはできない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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